生前贈与による相続税対策と注意点

相続対策の知識

生前贈与による相続税対策

生前贈与による相続税対策

※国税庁「平成27年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」をもとに作成

生前贈与で相続税対策する人が増えています。
国税庁が発表したデータによると、5年間で約26%も生前贈与の申告件数が増加してています。

生前贈与の申告数増加の背景には、相続税法改正が影響しています。
平成27年1月1日以降の相続から、相続税の基礎控除額が6割に縮小され、最高税率が55%にアップしました。

増税された相続税を回避するため、生前贈与で相続税対策する人が増えているのです。
このページでは生前贈与で相続税対策する方法について解説しています。

相続税対策の基本となる相続税の税率と基礎控除

相続税対策のためには、まず税率・基礎控除を把握しておきましょう。
相続税の税率よりも低い、あるいは控除額の大きい方法で生前贈与することで節税できるからです。

課税標準 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

子・孫に生前贈与することで相続税対策

相続税は、遺産が多ければ多いほど税額が上がる累進課税方式を採用しています。
相続税額を抑えるためには、相続財産を減らすことが有効な対策となります。

そこで注目を集めているのが、生前贈与です。

生前贈与とは、生きているうちに子や孫などに無償で財産(現金、預貯金、不動産、有価証券、美術品など)を与えることです。

相続を迎える前に、父母・祖父母世代が保有している財産を子・孫などの若い世代に移転することができます。

孫への贈与による相続税対策、孫を養子にする相続税対策
孫は法定相続人ではないので、孫に遺産を相続させるには生前贈与・遺言・養子縁組いずれかの方法が必要です。相続税対策にもなるので、ぜひ参考にしてください。

生前贈与と相続の違い

生前贈与と相続の違い

自分の財産を配偶者や子、孫などに受け継がせる方法には、相続と贈与があります。
自分が亡くなってから財産を受け継がせる場合は相続、自分が亡くなる前に財産を受け継がせる場合は生前贈与となります。

生前贈与とは?

  • 贈与者が死亡する前に受贈者に財産を与えること
  • 暦年贈与であれば、受贈者は誰であってもよい
  • 贈与税が発生

相続とは?

  • 被相続人の死亡によって、相続人が金銭や権利などの財産を受け継ぐこと(遺言書(遺贈)によって、相続人以外の人に財産を渡すことができる)
  • 相続税が発生

贈与には、贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)双方の意思表示が必要です。
贈与者による意思表示があっても、受贈者がそのことを知らなければ、贈与にはなりません。
贈与の証拠を確実に残すためには、贈与のたびに契約書を作成しておくとよいでしょう。

また、財産を取得したからといって、かならず贈与税が発生するわけではありません。
夫婦、親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものには贈与税はかかりません。

生前贈与の贈与税率と相続税対策

生前贈与の贈与税率と相続税対策

こちらは贈与税の税率です。
相続税率に比べ、かなり高くなっていることがわかります。

生前贈与にともなう贈与税の速算表

基礎控除後の課税価格 20歳以上の者が直系尊属から受けた贈与 一般の贈与
税率 控除額 税率 控除額
200万円以下 10% 10%
200万円超300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
300万円超400万円以下 20% 25万円
400万円超600万円以下 20% 30万円 30% 65万円
600万円超1,000万円以下 30% 90万円 40% 125万円
1,000万円超1,500万円以下 40% 190万円 45% 175万円
1,500万円超3,000万円以下 45% 265万円 50% 250万円
3,000万円超4,500万円以下 50% 415万円 55% 400万円
4,500万円超 55% 640万円

生前贈与には、暦年贈与または相続時精算課税贈与のいずれかの方法があります。
相続時精算課税贈与を選択しない限り、通常の贈与は暦年贈与となります。

  暦年贈与 相続時精算課税贈与
贈与者・受贈者 親族間のほか、第三者からの贈与を含む 60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫への贈与
選択 不要 贈与者ごと、受贈者ごとに選択が必要
一度選択すると、暦年贈与に戻せない
控除 基礎控除:毎年110万円 特別控除:2,500万円(限度額に達するまで何度でも控除できる)
贈与税率 10~55%の8段階(累進課税) 一律20%
メリット 贈与額が110万円以下であれば贈与税の申告が不要 一度に多額の贈与をおこなえる
相続財産を減らすことができる
デメリット 一度に多額の贈与ができない 相続財産を減らすことができない
連年贈与とみなされるケースがある 贈与税の申告が必要

暦年贈与は、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額が110万円以下であれば、贈与税がかかりません。
相続人以外への贈与も可能なので、孫やひ孫、子どもの配偶者などにも財産を渡すことができます。

暦年贈与による生前贈与で相続税対策する方法の注意点

ただし、長年にわたって110万円以下の贈与を受けている場合は、連年贈与(まとまった金額の贈与)とみなされ、贈与税がかかることがあります。
また、相続開始3年前の贈与は、相続財産に加算されます。

相続時精算課税贈与で生前贈与しても相続税対策にはならない

相続時精算課税贈与は、親世代から子世代への積極的な財産移転を目的として作られた制度です。
相続財産の削減にはなりませんが、住宅購入資金などとして一度にまとまった金額を贈与したい場合や、自社株を後継者に譲りたい場合などに有効です。

暦年贈与・相続時精算課税贈与を併用するときの注意点

相続時精算課税を利用した場合は、同じ贈与者から暦年課税による贈与を受けることができません。
贈与者が異なる場合は、相続時精算課税贈与と暦年贈与を併用できます。

暦年贈与・相続時精算課税贈与の併用ができない例

贈与者 祖父(相続時精算課税により、2,500万円を贈与)
贈与者 祖父(暦年課税により100万円を贈与)

暦年贈与・相続時精算課税贈与の併用ができる例

贈与者 祖父(相続時精算課税により、2,500万円を贈与)
贈与者 祖母(暦年課税により50万円を贈与)
贈与者 父(暦年課税により50万円を贈与)

生前贈与による相続税対策の控除・非課税枠

生前贈与による相続税対策の控除・非課税枠

贈与税にはさまざまな非課税枠が設けられています。
適用要件にあてはまれば、非課税で大きな金額の生前贈与が可能です。

不動産の取得資金を配偶者に生前贈与する相続税対策と非課税枠

婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅の土地・建物または自宅の取得資金を贈与した場合、2,000万円まで贈与税が非課税になります。

暦年贈与との併用ができるため、2,110万円まで非課税で贈与が可能です。
贈与税の配偶者控除を受けるためには、贈与税がかからない場合でも申告が必要です。

  生前贈与の配偶者控除
贈与者・受贈者 婚姻期間が20年以上の夫婦
非課税枠 2,000万円
メリット ・相続開始3年前以内の贈与であっても相続財産の対象にならない
・暦年贈与との併用ができる
デメリット ・同一の配偶者から一生に一度しか使えない
・贈与税の申告が必要
・相続の場合よりも不動産取得時の税金が高くなる
・贈与を受けた側が先に亡くなった場合はメリットがない

子・孫に不動産の取得等資金を生前贈与する相続税対策と非課税枠

20歳以上の子・孫が、父母・祖父母などの直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けると、一定金額まで贈与税が非課税になります。

非課税限度額は、住宅の構造や住宅の取得時期によって異なります。
受贈者には所得制限が設けられており、贈与を受けた年の合計所得金額が 2,000 万円以下でなければなりません。

  住宅取得等資金の贈与税の非課税枠
贈与者 父母・祖父母などの直系尊属
受贈者 20歳以上の子・孫
(贈与を受けた年の合計所得金額が 2,000 万円以下)
メリット ・相続開始3年前以内の贈与であっても相続財産の対象にならない
・暦年贈与、相続時精算課税贈与との併用ができる
デメリット ・贈与税の申告が必要

住宅取得等資金の生前贈与の非課税限度額

1. 住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%
住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成 31年1月1日から 3,000 万円 2,500万円
平成32年3月 31 日まで
平成 32年4月1日から 1,500 万円 1,000万円
平成33年3月 31 日まで
平成 33年4月1日から 1,200万円 700万円
平成33年12月 31 日まで
2.上記1以外の場合
住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成 28年1月1日から 1,200万円 700万円
平成32年3月 31 日まで
平成 32年4月1日から 1,000万円 500万円
平成33年3月 31 日まで
平成 33年4月1日から 800万円 300万円
平成33年12月 31 日まで

子・孫の教育資金を生前贈与する相続税対策と非課税枠

平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、30歳未満の子・孫などが、父母・祖父母などの直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者一人につき1,500万円(学校等以外に支払う場合は500万円)まで贈与税が非課税になります。

受贈者が30歳までに教育費として使いきれなかった場合には、贈与税がかかります。

  教育資金の一括贈与の非課税枠
贈与者 父母・祖父母などの直系尊属
受贈者 30歳未満の子・孫など
非課税枠 1,500万円(学校等以外に支払う場合は500万円)
メリット ・相続開始3年前以内の贈与であっても相続財産の対象にならない
・暦年贈与、相続時精算課税贈与との併用ができる
デメリット ・金融機関への専用口座の開設、領収書の提出が必要
・教育費以外の用途に使えない
・使いきれなかった場合に贈与税がかかる

子・孫の結婚・子育て資金を生前贈与する相続税対策と非課税枠

平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、20歳以上50歳未満の子・孫などが、父母・祖父母などの直系尊属から結婚・子育て資金を一括贈与された場合、受贈者一人につき1,000万円(結婚資金は300万円)まで贈与税が非課税になります。

受贈者が50歳までに結婚・子育て資金として使いきれなかった場合には、贈与税がかかります。
また、贈与者が死亡した場合には、残額は相続税の課税対象となります。

  結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠
贈与者 父母・祖父母などの直系尊属
受贈者 20歳以上50歳未満の子・孫など
非課税枠 1,000万円(結婚資金は300万円)
メリット ・相続開始3年前以内の贈与であっても相続財産の対象にならない
・暦年贈与、相続時精算課税贈与との併用ができる
デメリット ・金融機関への専用口座の開設、領収書の提出が必要
・使いきれなかった場合に贈与税がかかる
・贈与者が死亡した場合、相続税の対象となる(残額に対応する相続税額には2割加算がされない)

生前贈与の活用により、相続税の削減と若年世代への財産の積極的な移転を実現することができます。
しかし、その方法を誤ってしまうと、思ったような効果を得られないおそれがあります。

生前贈与を検討する際には、税金・節税対策の専門家である税理士のアドバイスを受けることが大切です。
気軽に参加できる無料相談やセミナーなどを利用し、税理士に相談をしてみてはいかがでしょうか。

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生前贈与による相続税対策の注意点

生前贈与による相続税対策の注意点

贈与には、贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)双方の意思表示が必要です。
贈与者だけの意思表示では贈与にはなりません。

意思表示は、書面または口頭でおこなうことができますが、口頭による意思表示の場合は、受贈者がいつでも撤回することが可能です。

生前贈与による相続税対策の手続き1.贈与契約書の作成

確実に贈与をおこないその証拠を残すためには、贈与のたびに贈与契約書を作成するとよいでしょう。
贈与契約書のひな形は、税理士事務所、司法書士事務所、銀行などの金融機関などのサイトから入手することができます。

住所・氏名は自署、実印による押印が望ましいでしょう。
さらに、贈与の日付を確実に証明するためには、公証役場で贈与契約書に確定日付を押印してもらうとよいでしょう。

生前贈与による相続税対策の手続き2.贈与の証拠を残す

また、贈与の証拠を残すためには、以下の手続きも必要です。

・贈与は、受贈者が普段使っている口座に振込でおこなう
・印鑑や通帳は、受贈者が管理する
・贈与税の申告・納税をおこなう

贈与者が受贈者に内緒で口座を作って預金をしていた場合は、名義預金とみなされ相続財産に加算されます。
受贈者が自由にお金を引き出せる状態でなければ、贈与したことになりません。

ここ数年、相続税の基礎控除額の縮小にともない、生前贈与を活用するケースが増えてきました。
夫婦や親子などの親族間であってもきちんと手続きをし、「あげたつもり」「もらったつもり」にならないように注意しましょう。

参考:相続対策の知識