相続税は、遺産相続が発生した人すべてにかかるものではありません。
一定の金額までは、税金がかからない非課税枠があり、実際に相続税を支払うのは一部の人に限られます。
相続税がかかるのは、どういった場合なのでしょう。
遺産相続が発生すると、亡くなった人(被相続人)が所有していた権利、義務は、相続人に継承されます。
この相続人に継承される権利、義務のことを、相続財産といい、一般的には「遺産」と呼ばれています。
相続財産は、物だけに限られず、被相続人が有していた地位なども含まれます。
また、プラスの財産だけでなく、債務などのマイナスの財産も含まれます。
プラスの相続から、非課税財産(墓地、仏壇・仏具など)、マイナスの財産(債務・負債)、葬式費用を控除し、みなし相続財産、相続開始3年以内の贈与財産、相続時精算課税による贈与財産を加えたものが、相続税がかかる財産となります。

プラスの財産
現金、預貯金、株式、債券などの有価証券、土地、建物、農地、借地権、借家権、自動車、貴金属、骨董品、ゴルフ会員権など
現金・預貯金は額面どおりの金額で評価されますが、株式、債券などの有価証券、不動産、動産は財産の種類ごとに評価方法が決められています。
財産が高く評価されれば課税価格が上がり、評価を低く抑えることができれば、課税価格が下がります。
また、被相続人が住居用または事業用に使っていた宅地を相続する場合は、一定の要件を満たすと、評価額が80%(貸付事業用宅地は50%)減額される、小規模宅地等の評価減の特例という制度があります。
みなし相続財産
生命保険(死亡保険金)、死亡退職金
相続開始3年以内の贈与財産
相続開始前3年以内に、被相続人から贈与を受けた財産
相続時精算課税による贈与財産
生前に被相続人から相続時精算課税制度による贈与を受けた財産
遺産相続にかかる税金と基礎控除額
相続税は、課税価格に対してではなく、課税価格から基礎控除額(非課税枠)を引いた金額に対して課税されます。
財産が一定金額以下である場合は、相続税はかかりません。
相続税の基礎控除額は、相続税法の改正により、2015年1月1日から以下の金額に縮小されました。
法改正前には相続税がかからなかった人でも、今後は課税対象となる可能性があります。
相続税の基礎控除額(非課税枠) = 3,000万円 + ( 600万円 × 法定相続人の数 ) |
※遺産を放棄した人がいた場合でも、放棄がなかったものとして計算されます。
(参考)2014年12月31日までの基礎控除額
相続税の基礎控除額(非課税枠) = 5,000万円 + ( 1,000万円 × 法定相続人の数 ) |
(例1) 法定相続人が妻、子ども2人の場合
相続税の基礎控除額(非課税枠) = 3,000万円 + ( 600万円 × 3 )= 4,800万円
(例2) 法定相続人が妻、子ども3人(1人は相続放棄)の場合
相続税の基礎控除額(非課税枠) = 3,000万円 + ( 600万円 × 4 )= 5,400万円
生命保険・死亡退職金と相続税の非課税限度額
生命保険の死亡保険金と死亡退職金は、みなし相続財産と呼ばれています。
被相続人が亡くなった日には財産として持ってはいませんが、死亡を原因として生命保険会社や勤務先から財産を得たとみなされるため、相続財産に含まれます。
死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ以下の非課税限度額が設けられています。
生命保険の非課税限度額(非課税枠) = 500万円 × 法定相続人の数 |
死亡退職金の非課税限度額(非課税枠) = 500万円 × 法定相続人の数 |
※遺産を放棄した人がいた場合でも、放棄がなかったものとして計算されます。
遺産相続の税金がかからない非課税枠
相続税の基礎控除額と、生命保険の死亡保険金、死亡退職金の非課税限度額を合計したものが、非課税枠となります。
非課税枠は、法定相続人の数が多いほど大きくなります。
法定相続人の人数 | |||||
1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | |
基礎控除額 | 3,600万円 | 4,200万円 | 4,800万円 | 5,400万円 | 6,000万円 |
生命保険金の非課税限度額 | 500万円 | 1,000万円 | 1,500万円 | 2,000万円 | 2,500万円 |
死亡退職金の非課税限度額 | 500万円 | 1,000万円 | 1,500万円 | 2,000万円 | 2,500万円 |
合計 | 4,600万円 | 6,200万円 | 7,800万円 | 9,400万円 | 11,000万円 |
サラリーマンや公務員で、勤め先に退職金制度がある場合は、遺族に死亡退職金が支払われます。
勤め先の制度を確認しておくとよいでしょう。
また、生命保険(終身保険)に加入することで、生命保険金の非課税限度額を活用でき、相続税の非課税枠を増やすことができます。
遺産相続にかかる税金の計算
課税価格が非課税枠を超えなければ相続はかかりませんが、非課税枠を超える場合には、その分に対して相続税がかかります。
相続税の計算の手順は以下のとおりです。
1. 課税遺産総額を求める
↓
2. 相続人全員の相続税額を求める
↓
3. 相続人ごとに相続税の納税額を求める
↓
4. 加算・控除により納税額を確定させる
被相続人:夫
法定相続人:妻、長男、長女
相続税がかかる財産(課税価格)
1億7,300万円
(預貯金 3,500万円、株式 1,600万円、居住用宅地 1億円、建物 200万円、生命保険 2,000万円)
生命保険の帆課税限度額
生命保険の非課税限度額 = 500万円 × 3 = 1,500万円
小規模宅地等の評価減の特例の適用
居住用宅地評価額 2,000万円
相続税の基礎控除
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + ( 600万円 × 3 )= 4,800万円
課税総額
課税遺産総額 7,800万円 -4,800万円 = 3,000万円
預貯金:妻(2,200万円)長男(100万円)長女(1,100万円)
株式:長男(800万円)長女(800万円)
居住用宅地:妻(200万円)
建物:妻(1,000万円)長男(1,000万円)
生命保険:妻(500万円)
相続人全員の相続税額
課税標準 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
妻の仮の相続税額(法定相続分)
(3,000万円 × 1/2 × 15%)- 50万円 = 175万円
長男の仮の相続税額(法定相続分)
(3,000万円 × 1/4 × 10%)= 75万円
長女の仮の相続税額(法定相続分)
(3,000万円 × 1/4 × 10%)= 75万円
法定相続人全員の相続税額 = 175万円 + 75万円 + 75万円 = 325万円
相続人ごとの相続税の納税額(実際の相続税額)
(法定相続割合どおりに分割した場合)
妻の相続税の納税額
325万円 × 1/2 = 162.5万円
長男の相続税の納税額
325万円 × 1/4 = 81.25万円
長女の相続税の納税額
325万円 × 1/4 = 81.25万円
加算・控除
加算 | 被相続人の配偶者、一親等の血族(子、父母、代襲相続の孫)以外の相続人には、相続税額が2割加算される |
暦年課税分の贈与税控除 | 相続開始3年以内の贈与は、相続財産に加えられるため、そのときの贈与税額が控除される |
配偶者の税額軽減 | 配偶者が遺産を相続した場合、1億6,000万円までまたは法定相続分までのどちらか大きい金額までは相続税がかからない。 |
未成年者控除 | 法定相続人が満20歳未満の場合には、その年齢に応じて控除を受けられる |
障害者控除 | 法定相続人が、85歳未満の障碍者の場合、その年齢に応じて控除を受けられる |
相次相続控除 | 10年以内に相続が2回発生したときに、2回目の相続税の課税対象から一定金額を控除できる |
外国税額控除 | 外国にある財産について、その国の法令に基づいて課税された一定の相続税がある場合は、二重課税を排除するため、日本の相続税から一定額を控除できる |
妻:配偶者の税額軽減により、納税額 0円
長男、長女 81.25万円ずつ納税
遺産相続にかかる税金の申告・納税
課税価格が非課税額を超える場合は、相続税の申告が必要です。
相続税の申告・納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内におこなわなければなりません。
相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡の時の住所地を所轄する税務署です。
課税価格が非課税額を超えても、小規模宅地等の評価減の特例の適用や配偶者の税額軽減などの控除をおこなうことで、相続税がかからなくなる場合があります。
小規模宅地等の評価減の特例の適用や控除は、相続税の申告をすることで認められます。
忘れずに申告をおこないましょう。
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